日本人にとって核兵器と言えば真っ先に広島・長崎に投下された
原子爆弾を思い浮かべるでしょう。
約80年前、アメリカ軍が投下した原爆は両市を一瞬にして壊滅させ、
同時に数十万人もの市民の命を奪いました。
以降、現在に至るまで日本は世界で唯一の被爆国であり、
その恐ろしさを身に染みて経験したからこそ非核三原則すなわち核兵器を
『持たず、作らず、持ち込ませず』を厳守し、その姿勢を基に世界に向けて
核廃絶を訴え続けてきました。
そんな日本が核武装するなどとても現実味のある話ではなく、
そもそも議論することさえ禁忌である。そう考える日本人が大多数でした。
ここで『でした』と表現したのは近年少しずつですが、日本の国防について
危機感が醸成されてきたからです。
すなわち北朝鮮や中国の脅威、そして2022年より始まって未だ
終結の兆しが見えないロシア・ウクライナ戦争の影響が大きいでしょう。
本論では、日本の核武装が本当に必要なのか、そうだとして可能なのか、
この二点に重点を置きつつ核兵器の持つ国際的な役割についても述べていきたいと
思います。
1.核兵器の役割
核兵器というと人類を滅ぼしかねない恐ろしいモノだから
一刻も早く世界から無くすべきだ。
確かに間違いないのですが、現実世界はそう一言で片付くほど
単純ではありません。
一体どういうことなのか。
それは核を保有する国が大きな影響力を持ち、また核兵器の存在は
世界の平和維持に少なからず貢献してきたのです。
まず影響力についてであるが、現在世界における核保有国はアメリカ、
ロシア、イギリス、フランス、中国という五大国の他、
インド、パキスタンそして北朝鮮です。
五大国は国連において常任理事国であり、また核拡散防止条約(NPT)という
1970年代に結ばれて今や世界のほぼ全ての国が加盟している枠組みの中で
例外的に核保有が認められています。
このように核を持つ国は国際的に強い影響力や特権を持っているのです。
ちなみにインドやパキスタンは最初からNPTには入っておらず、
北朝鮮は途中で脱退しています。
それでは核兵器が世界平和に貢献するとはどういうことなのか。
まず核兵器は第二次大戦末期にアメリカが世界で初めて開発に成功し、
その後旧ソ連、イギリス、フランス、中国が保有するに至りました。
そして現在に至るまで世界のあちこちで紛争は起きていますが、
核を保有する国同士での戦争は一度も起きていません。
なぜなら一方が他方を核攻撃した場合、必ず核による報復を受け、
双方に甚大な被害が出るからであり、お互いにそれが分かっているから
迂闊に手出しできないのです。
これを相互確証破壊といい、また核抑止ともいいます。
つまりこの核抑止のおかげで世界大戦につながる大国間の直接的な
軍事衝突は回避され、ひいては世界平和に貢献しているという訳です。
2.日本の核武装の必要性
日本が核武装する必要性は国防はもちろんのこと、国際的発言力の面からも
必要と考えます。
まず国防ですが、これについては日本の場合、中国・ロシア・北朝鮮という
反日かつ核保有国が近くにあるのだからこれらの脅威に対抗するため、
核を保有する必要性は十分にあるでしょう。
前述したように核保有国間では核抑止が働き、簡単に手出しはできません。
近年のロシア・ウクライナ戦争は改めてこの点を再認識させた事例です。
すなわち当初ウクライナは旧ソ連から部分的に核を引き継いだのですが、
アメリカ、ロシア、イギリスとの合意により核を放棄しました。
これが結果的に災いしてロシアの侵攻を許してしまい、
もし核を放棄してなければこの戦争は起こらなかったといわれています。
しかし日本には日米同盟があり、アメリカの核の傘に守られているのだから
わざわざ独自に核保有する必要はないのではないかという意見もあるでしょう。
これについては例えば現状で日本と中国が戦争になった場合、中国は核による
恫喝をしてくるでしょう。
その際、アメリカはいくら同盟関係にあるとはいえ、自国が核報復に晒される
危険を冒してまで日本を守るでしょうか。
こればかりは実際に有事が起きないと分かりませんが、少なくとも他国に身の安全を
委ねるよりは自国で核保有した方が確実ではないでしょうか。
さて国際的発言力の観点から核保有はどのようなメリットがあるのか。
この点については先述した五大国がいずれも国連の常任理事国であるように、
核を保有する国こそ一流の国家であり国際的に大きな発言力を持っているのが現実です。
国連には加盟国がそれぞれの経済力に応じて分担金を出しており、
日本は世界で2,3番目に多く拠出しています。
これはGDPから見て妥当なのですが、日本は常任理事国ではなく、
負担相応の待遇を受けているとはいい難いです。
日本の場合、国防はアメリカ頼みであり、一人前の国家と見られていないことが
一因としてあります。
いくら金だけ出しても自前の防衛力がなく、経済力に軍事力が見合っていないのです。
そこで自ら核保有すれば世界の日本に対する見方が変わり、一流国として発言力が
増大するはずです。
もちろん核による恫喝などあってはならないですが、同じ平和主義や核廃絶を
訴えるのでもその影響は従来よりずっと大きくなるでしょう。
以上が日本が核を持つ必要性です。
3.日本の核武装の可能性
日本が核を保有することは現実的に可能なのでしょうか。
まず技術力と核維持のための経済力に関しては全く問題ないといえます。
日本には数々の原発があり、平和的利用から軍事への転用が必要とはいえ
さほどの障壁ではありません。
また核の維持には莫大な費用がかかりますが、日本ほどの経済力ならば
そう大きな問題ではないでしょう。
そもそも北朝鮮のような世界最貧国でもやってのけたのだから
日本にできない筈がありません。
問題は国内の意識改革と諸外国の理解です。国防意識が高まっているとはいえ、
日本には国民も政治家もまだまだ核に対する拒絶反応は強いです。
最大のハードルは憲法9条及び非核三原則の改正になります。
これを達成しないことには例え核開発しても有事の際に運用できません。
ロシア・ウクライナ戦争の帰結次第で日本国内の意識改革がどこまで進むかが
当面注視すべき点でしょう。
また、諸外国の理解に関しては日本が核保有に動いた場合、
まず中国と韓国が猛反発するでしょう。ロシアや北朝鮮も同様です。
ただ実は日本の核武装化を最も嫌がるのはアメリカなのです。
これは遡ること1950年代、日本が戦後独立して間もない頃、当時の首相であった
岸信介は憲法改正と自前の核保有を声高に叫び、本気で実現しようとしていました。
背景にはソ連の脅威と中国の核保有化があり、これに対してアメリカが
いざという時は核の傘で守るから日本独自の核保有は諦めて欲しいと迫り、
安保改定で決着しました。
アメリカからすれば日本が再び軍事大国化すればいつか第二次大戦の報復を
されることが怖かったのです。
その後、日本は国防をアメリカに任せて経済成長に邁進し、いつの間にか
自前で核武装するという発想が政治家の中から消えてしまいました。
少し話が逸れましたが、とにかく日本が核保有するにはアメリカの理解を得ることが
最も重要かつ困難なのです。
この点に関してはロシア・ウクライナ戦争が始まって間もない頃、故安倍元総理が
アメリカに核シェアリングを持ちかけてはと語っていた事が一つの突破口になるでしょう。
すなわち日本がいきなり自前で核を持つのではなく、有事の際はアメリカの核を借りて
日本側の判断で使用できるようにするのです。
実際にNATOではこのような取り組みがなされているので、夢物語ではないはずです。
日米双方のメリットを模索して実現に漕ぎ着けた後、時間はかかるかもしれませんが、
徐々に日本独自での核保有という方向に持っていけるかが鍵です。
4.終わりに
以上、現状世界における核の存在意義を踏まえた上で、日本の核武装の必要性と
可能性について述べてきました。
誤解してはならないのが核兵器というのは使うために持つのではなく、
あくまで使わない事を前提に核抑止による自衛のために持つのです。
日本を取り巻く情勢は年々厳しさを増しているため、
とにかく核保有の世界に対する影響を直視して、一刻も早く有効な国防策を練ることが
必然です。
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